縦書きWebサイトの探求

市村 剛大

「アマツチ」宣言

 皆さんご存知の通り、90年代以降インターネットは大きな発展を遂げ、2023年現在最も力を持ったメディアであることに疑いようはない。HTMLをはじめWeb技術の標準はW3Cによって規定されてきた。W3Cは米国、欧州、そして日本の3機関によって長らく運営されてきたはずだが、残念ながらWeb上での日本語の書式は英語などのそれと比べると劣後されてきたと言わざるをえない。

 日本語は元来上から下へと書く言語だ。西洋の横書き活版技術を縦書きに落とし込んだ先人の多大な努力のおかげで、活字の時代においても「縦書き」は強く残っていた。毎朝、新聞から昨日の出来事を仕入れる時も、通勤電車で小説の中の世界に入り込むときも、日本人は目を上から下へ動かしていたはずだ。つまり日本中の2億の目の運動がこの廿年で上下から左右に方向を変えてしまっているのだ。この運動量の変化はいずれ列島の断層を刺激し大地震を引き起こすだろうし、大気を摩擦し大台風を巻き起こすだろう。我々は日本の未来のためにこの流れを止めなければいけない。

 日本の未来を守るために市村剛大ならびにロクジュウゴ文化祭実行委員会はプロジェクト「アマツチ」を宣言する。

 なお、プロジェクト名は白石火乃絵に命名いただいた。


 2019年、W3CによってWebサイトの縦書きをブラウザレベルで可能にする「CSS Writing Modes Level 3」が勧告された。これによって縦書きWebを活用しようという動きは多少あったが、残念ながら本格的な活用はなされていない。プロジェクト「アマツチ」は「CSS Writing Modes Level 3」を活用しながら当雑誌「偏向」Web版用のスタイルシートフレームワークを作成し、それを「Amatsuchi.css」と名付ける。「偏向」Web版の作成を通じて縦書きWebについて多方面から考察し、それをフレームワークにフィードバックしていく。最終的には実用的なCSSフレームワークとして多くの方に利用していただけることを目標とする。


 「Amatsuchi.css」の作成に取り掛かるにあたり、いくつか今考えていることを書き留めておきたい。

・「縦書き」×「横スクロール」をベースとする

 縦書きWebサイトを奨励する団体が運営する「縦書きWeb普及委員会」というサイトがあるが、ここで挙げられている縦書きサイトは基本的に縦スクロールである。縦スクロールの縦書きは、改ページの際に左右の目の動きが入る。これは、文章を読む体験として明らかに問題となる点であり、許容できない。横スクロールはスワイプなどの動きと干渉する可能性はあるが、本フレームワークでは目の動きで優れる「縦書き」×「横スクロール」のスタイルを追求していく。

・あくまで縦書き「Webサイト」のスタイルを追求したい

 縦書きスタイルの追求のために、文庫本、新聞などのレイアウトを参考にすることとなると思うが、「Amatsuchi.css」が目指すのは縦書き「Webサイト」のスタイルである。文庫本の書式を再現するフレームワーク、などとならないように注意したい。

・スマホファーストで考えたい

 スマートフォンの時代である。スマートフォンを基軸にスタイルを考えていきたい。今の所具体的なアイデアがあるわけではないのだが、スマホ特有のUIにおいて縦書きかどうあるべきかを考えていきたい。

 一旦この程度にしておく。「Amatsuchi.css」の更新状況は次のGitHubリポジトリで公開する。

https://github.com/takehiro-ichimura/amatsuchi


 まだ、日本人の心から縦書きの心は失われていない。その証拠に、芸能人はSNSの匂わせ投稿で「縦読み」に真実を隠す。今が最後のチャンスかもしれない。縦書きを取り戻そう。

目次へ