[5] 簡易業務用無線帯 138.000 ~ 173.995MHz
ダイヤルを回し続けると、これまでとはまったく違う音が聞こえてきた。事務的で機械的な声だ。「配達完了」「了解」「次の指示をお願いします」。タクシー無線である。周波数を少し変えると警備会社の無線も聞こえる。「ビル南側、異常なし」。ごく普通の業務連絡が次々と流れてくる。これはこれでなかなか面白い。しかし同時に、不安も覚える。無線というのは聞かれる前提で使わなければならないのだということを実感する。
[6] アマチュア無線帯 144.000 ~ 147.995MHz
この周波数帯に入ると、いよいよ「アマチュア無線らしい」声が聞こえてくるかと期待したのだが、これがほとんど聞こえない。たまに「CQ CQ CQ こちらJA1〇〇〇」という呼びかけが聞こえるくらいだ。CQというのは「不特定の局への呼びかけ」を意味する符牒だそうだ。しかしこの帯域はほとんど沈黙している。調べてみると、アマチュア無線人口は平成の初めをピークに急激に減少しているそうだ。携帯電話とインターネットの普及で、わざわざ免許を取って無線で話す必要がなくなったのだろう。そう考えると、この静けさは寂しいような、それでいて当然のような気もする。
[7] 航空無線帯 118.000 ~ 136.975MHz
このバンドでは、パイロットと管制官とのやりとりを聞くことができる。英語と日本語が入り混じった独特のリズムがある。「Tokyo control, JAL123, request flight level three five zero.」「JAL123, Tokyo control, roger, climb and maintain flight level three five zero.」淡々とした声のやりとりだが、この向こうに何百人もの乗客を乗せた航空機が空を飛んでいるのだと思うと、妙に緊張する。彼らは毎日、この周波数帯で命を預けたやりとりをしているのだ。
[8] 430MHz帯 430.000 ~ 439.995MHz
またアマチュア無線の周波数帯である。144MHzよりは賑やかだが、それでも交信している局は少ない。しかし、いくつかの「レピーター」というものを見つけた。レピーターというのは、電波を中継する装置で、山の上などに設置されている。遠くの局同士を中継することができるそうだ。レピーターを経由した交信を聞いていると、「今日はいい天気ですね」「そうですね、久しぶりに電波の飛びがいいです」といった、のんびりした会話が聞こえてくる。この感じ、なんだかいいなと思った。
さて、周波数の旅はまだまだ続くのだが、紙幅が尽きてきた。受信だけでもこれだけ面白いのだから、実際に送信するとなったらどうなるのだろう。まだ免許申請をしていないので、それはまた次の機会に。しかし、ダイヤルを回すだけで、目に見えない電波が満ちていることを実感できる。空間は沈黙しているわけではなく、無数の声で満ちているのだ。ただ、受信機を持っていないだけで。