中学生の時、部活動の一環でアマチュア無線4級の免許を取得した。「物理部無線班」という名前の部活でかつてはアマチュア無線をやっていたらしいが、自分が所属する頃には特に無線関係の活動はしておらず、ゲームやロボットを電子工作やプログラミングで作る部活となっていた。たしか名前の由来になっているのだし資格をとってみよう、という先輩の一声で、部員総出で免許を取得することになったのだと思う。アマチュア無線4級はれっきとした国家資格ではあるものの、簡単な試験に合格さえすれば取得できる資格である。作問者のやる気がないのか毎回出る問題のほとんどは過去問と全く同じ問題であり、大して電気や無線の知識がなかった中学生の自分でも1ヶ月程参考書で対策すれば合格することができた。合格した直後は折角免許をとったのだし無線機を買ってみようかと少し思ったのだが、値段を調べてみると最低でも数万円といったところで中学生のお小遣いでは厳しいものだった。そこまでモチベーションがあった訳でもなく、同じお金があれば新しいギターやパソコンの方が欲しいと思い、結局アマチュア無線は始めず仕舞いであった。
次に「アマチュア無線」という単語を聞いたのはそれから十年後ほど経った後、大学の研究室に入ったときだった。アンテナに関する研究もやっている研究室で、教授がアマチュア無線免許をもっていると言っていた。アンテナの勉強は面白く無線機を買って自分で電波を発信してみたいと少しは思ったが、この時も例によって金欠で結局始めることはなかった。──そして、それから更に五年ほど経った昨年、アマチュア無線と三度目の接点を持つこととなった。(残念ながら詳しくは話せないのだが、)仕事関係で少しだけアマチュア無線に関わることとなったのだ。生きていてこう度々アマチュア無線との関わりが訪れる人もそう居ないだろうし、何か縁があるのではないかと思った。丁度何か新しい趣味を探していたこともあり、また以前よりもお金には余裕があるので、遂にアマチュア無線を始めてみようと決めたのである。
さて、始めてみよう、ということだけは心に決めたのだが、改めて考えてみるとアマチュア無線という趣味が具体的にどんなことを行い、どこに面白味がある趣味なのかをまるで知らないことに気づいた。まずはGoogleで「アマチュア無線 できること」と調べてみた。──よく分からない。出てくるサイトは、どれも専門的な用語が多すぎてピンとこないのだ。アマチュア無線は古い趣味なので、今楽しんでいる人の多くはインターネットがない時代に既に始めており、これから始める人向けの情報がインターネット上にはあまり整備されていないのかもしれない。いくつものサイトから断片的に得た情報から、無線が繋がった人と雑談する(ラグチューというらしい)、だったり「QSLカード」と呼ばれる交信記録の葉書を集める、という楽しみ方があるということが分かった。自分が高校生くらいの時に流行った、ランダムに繋がった人と会話を楽しむスマホアプリの「斎藤さん」みたいな感じだろうか。アマチュア無線をやっている方は年配の方が多そうだから、雑談といっても話題がないのではないだろうか…と少し不安を感じつつ、葉書集めは楽しそうだ、と思い先に進むことにした。
ある程度アマチュア無線で出来ることは分かった。だが、始めるためにはどんな準備が要るのだろうか。例によってインターネットに載っている情報は内容が難しい。無線機で電波を飛ばすにはコールサインという無線局番を総務省に申請して取得する必要があるらしい。とりあえず無線機を買えばいいのだろうか。それとも先に申請をするのだろうか。趣味なのに始めるハードルがこんなに高いのか、と思った。身の回りに詳しい人がいればスムーズなのかもしれないが、残念ながら自分の場合は皆無だ。昔のアマチュア無線を始めたいガキならどうしただろうか。無線屋に行って店員に聞くのではないだろうか。幸い、中学の頃先述した部活で電子部品を買うために秋葉原の電気街によく行っていた為、秋葉原に無線屋が幾つかあることは知っていた。一旦、週末に秋葉原の無線屋に足を運んでみることとした。