猫の目

益田伊織



 エヴリバディ・ニーズ・ア・ロック、『すべての ひとに 石が ひつよう』という題の本がある。「すべてのひとに 石がひとつ ひつよう。/友だちの石を 持っていない 子供は かわいそう」。そんな「友だちの石」と出会うために、著者であるバード・ベイラーは十のルールを提示している。「石は あたりが 静まり返っているときに えらぶ」、「あまりにも 大きな 石は えらばない」、「あまりにも 小さな 石は えらばない」、「石を えらぶときには 誰にも 相談など しない」等々…
 この絵本でベイラーが子供たちに向けて語りかけているルールを、石拾いに限定して読む必要はない。きっと誰にも、唇にそっとのせたとき、落ち込んだ心に陽気さと快活さとを取り戻してくれるような歌の一節が必要だ。「かんぺきな 大きさの 石を えらぶ。(…)ポケットにいれて 走ったとき 跳びはねるような 石を えらぶ」。心の友となるような歌を探しているのであれば、散歩しながら口ずさんでみて「跳びはねるような」、自身の歩調に呼応して快いリズムを刻む曲を探してみるといい。

 原広司『集落の教え 100』では、世界中の集落を調査した建築家が、その過程で学びとったことを百の箴言にまとめている。集落というと伝統主義、前例踏襲といったイメージがあるかもしれないが、実のところそれは、人が自らの置かれた自然環境を引き受けながら生を組織しようとして編みだした知恵の結晶である。そんな知恵をさらに純化したかのような原の言葉はそれゆえ、広義での創造、創作を試みる者にとって、汲み尽くし難い発想源となることだろう。例えば次のような一節──「複雑なものは単純化せよ。単純なものは複雑化せよ。その手続きの複雑さが人の心をうつ」。「ルーズな構造を与えよ。そして、さまざまな径路を生成せよ」。
 創造などと言っても大げさに考える必要はなく、部屋の模様替えでも土日の昼の料理でも構わない──創造性とは制作物の形態ではなく、制作の過程における知恵の煌めきにおいて定義されるものなのだから。生を創造的なものたらしめること。そのために必要なきっかけなら多分、至るところにある。河原に転がっている一つの石ころにも、家々の間を貫く一本の道にも。

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